『帰ってきたのは僕だった』

『帰ってきたのは僕だった』

 

水曜日のレイトショーにて観賞を予定していた。が、僕の電話がなる。

「福田君ごめん! 今日、出勤してくれないかな?」

バイト先の主婦さんの子どもが肺炎になってしまったため出勤できなくなり僕に白羽の矢が立ったようだ。息子が肺炎。それは大変だ。レイトショーよりも助け合いの精神を優先した。木曜日のバイト前に映画館に行けばいいだけのことだ。少しくらいの早起きは我慢しよう。

木曜日、時計の秒針を見て自分の意志の弱さを痛感する。目的の起床時間は9時であったが僕の目の前にある時計は10時30分を知らせている。まずい、これでは映画「帰ってきたヒトラー」を観賞する時間がない。すぐさま僕は、各劇場の上映時間を確認する。どこかで観れるに違いない。

しかし僕の読みは甘かった。どこも大体同じ時間帯に上映している。どこか一つくらいファンキーな時間に上映してくれていてもよかろうに。まったく、周りに迎合する日本人特有の姿勢は映画館にまで影響を与えているようだ。

仕方ないから都内の映画館も調べる。すると新宿の劇場に1館、周りに迎合しない、芯のある粋な映画館があるではないか。 「最終上映時間26:50〜29:00」。実にファンタスティックな時間帯である。普段であればこんな時間に上映していることを知ったら「誰がこんな時間に映画見るんだよ」と軽く嘲笑するところだが、この時ばかりは頭が上がらなかった。早速、バイトの終わる24時から新宿に向かう電車を調べる。

我が故郷、藤沢。この地に住み始めて10年は経つだろう。湘南の海、古都鎌倉、学校にも近い。そんな藤沢が僕は大好きだ。しかしそんな藤沢にも限界があった。

藤沢発の新宿方面行き、終電23時43分。バイトが終わる頃にはもう電車がない。ファンキーな映画館でファンタスティックな時間に映画を観ることもできないのである。

結局「帰ってきたヒトラー」を観ることができなかった僕は、いつか都内で一人暮らしするようになったら深夜帯の映画館に行ってみたいものだと、悲しみに暮れながら家に帰っていくであった。

 

福田 周平

 

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です