銀の匙

この「銀の匙」は、タイトルになった「銀の匙」の由来から始まる「私」の私的な想い出話である。子どもの頃に見た世界、そして叙情世界が描かれている。「私」は難産の末に生まれ、病弱で神経過敏であった。そして、自分にとって大切なものや美しいと思うものに素直で、また繊細であり粘着気質であったように感じられた。それらを詩的につらつらと、大切にひしと抱きしめるように描かれていた。
白黒に綴られたその東京の街並みは、ただ状況を書き表しただけでない。そこに流れる情況までも、言葉のかくれんぼをしながら巧みに綴られている。気づいたのは、活字の白黒世界に疲れて、もう前編だけで書いてしまおうかと思っていた矢先である。感情の動きがわからなくてつまんないと、その瞬間に私は感情の動きを捉えた。もう、見いつけた!である。見事にはめられてしまっていた。そのかくれんぼには、言葉への愛がひしひしと感じられた。「私」の見た世界のなかに、感情を隠していた。
銀の匙で薬とともに注がれた深い愛は、彼にこの世界への希望を与えたのかもしれない。そして彼は、銀の匙で掬った想い出を、いつになっても消えないものとして残しておきたかったのだろう。彼の心が何を感じていたか、文字に閉じ込めるように。
もーいーかい?
まあだだよ。
この前編までの私と銀の匙のやりとりは、後編には消えていた。
「波の音が悲しいんです。」なんて。
君が泣きたくてたまらない哀しさを感じているからだよ。
雨のふりだした夕方
君の心が涙した夕方かな。
「人はなぜ孝行しなければならないんです」
そんなの、私だって聞きたいよ。
「そんなに生きてたいとは思いません」
絶賛人生迷子中の私と何度も重なり、何だか切なくて悔しくってぽとぽと涙に気づいた。そうか、私自身も人生のかくれんぼをしていたんだ。そんなに”生きてたい”とは思えないのに、答えはどこに隠れているのだろう。

もーいーよ!そろそろ聞こえてくれたっていいんだよ。

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