カラヴァッジョという人間

人間の肉体美を描く「ルネサンス期」から人間の個人の感情が表現されるようになった「バロック期」。この移行の立役者がカラヴァッジョである。

ルネサンス期の絵画は、絵全体が光で明るく照らし出され、レオナルドダヴィンチやミケランジェロなどが大きな影響を与えた事に間違いはないが、カラヴァッジョは更に踏み込んで鮮明な陰影で印象付け、人々の表情もよりリアルな感情を滲み出させた。また背景を排除することでより対象に焦点を当て、人の本質を浮き彫りにしている。これらの革新的な表現で現実の一瞬一瞬を、自然を完璧に模倣し、革新的な描写を確立した。

 

絵画の腕前は賞賛されるべきものであるが、一方で彼は人間の本性を剥き出しにしたような人生を送った。絵を書き終えては酒に溺れ、その度に問題を起こし、多くの裁判記録を残す破天荒で奔放な若者だった。しまいには、殺人まで犯し逃亡生活を送り短い生涯を終える。人間としては最悪な印象だが、生きていく事の難しさや日々の怒りが絵画だけでなく自らをもって体現しているようだ。

 

この逃亡生活中に描いたのが「法悦のマグダラのマリア」。

よく描かれる題材のテーマとしては、マリアは元娼婦でありその過去を悔い、キリスト教に帰依し回心する、といったものだ。

しかし、彼のマグダラのマリアからはそのような過去を悔い、恥じているようには見えない。半開きの目と口、灰色となった唇、回心とはかけ離れたどこか恍惚とした官能的な表情である。殺人の罪から逃れたいという彼の感情とリンクしているのか。それとも法悦をどこか見いだしていたのか。彼にとっての過去とは何だったのだろうか 釘付けになり押し寄せるように問いかけてくる。

 

彼らしくもあり彼らしくない「果物籠を持つ少年」が印象的だった。

まず目につくのが、彼が得意とした極めて写実的で鮮やかな瑞瑞しい果物。対してその籠を抱える少年は果物とは異なる表現でどこかぼんやりと描かれ、どこか虚ろな目で首を傾けている。この対照的な描写が、命を持つ人間の儚さと不安定さ、不変なる自然の強さを意味しているようだ。

 

彼が緻密に人間の本質を、今自分が生きている現実をありのままに表現した作品からは澱みの無いまっすぐな感情や思いが馳せられるだろう。

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