黄金のアデーレ
黄金のアデーレ
総合3年 伊東 宏
グスタフ・クリムトが描いた世界的名画「黄金のアデーレ」をめぐって実際に起こった裁判と「黄金のアデーレ」に秘められた数奇な物語を、アカデミー賞女優ヘレン・ミレン主演で描いた作品。アメリカに住む82歳のマリア・アルトマンがオーストリア政府を相手に裁判を起こした。世界中を驚かせたその裁判は、クリムトが描いたマリアの叔母アデーレの肖像画「黄金のアデーレ」の返還要求だった。ナチス統治下のオーストリアで、ナチスによって奪われたその名画には、マリア自身と彼女を取り巻く人々のさまざまな記憶が詰まっていた。深い喪失から立ちあがった女性が、国を相手に奇跡を起こす希望溢れる感動の実話。
観る前は、名画を巡る法廷闘争ものかと思っていた。たしかにそれはストーリーの軸にはなっているのだが、主題はそこではなかった。私が心を動かされたのは、マリアの家族・故国への想い、正義に対する信念、オーストリア国民の良心、そしてナチスおよび人の理不尽さと残酷さ。
本作は実話ベースらしいが、もしドキュメンタリーのように淡々と描いたらここまでの感動はしなかったと思う。伯父・伯母の遺言書が見つかったところで、理屈的にはマリア側に完全に利が有り、結果だけ見れば当然とも言える。また、返還された絵も最後は巨額の金に替えたらしいので冷やかに見れば「戦時中の大金持ちがナチスに名画をとられちゃったけど、執念深く戦って取り返し、大金をせしめたとさ、」というようにも取れないことはない。 しかし、本作の凄さは名画奪還という客観的事実に、マリアやランディーが故国でどんな思いを巡らしたのかということを、脚本家・監督、さらには役者がたくましい想像力で肉付けしたことにある。多分そこには事実と異なる部分も多少はあるに違いないが、観る者の共感を呼ぶ真実味ある想像になっているところが素晴らしいのだと感じた。