赤めだかは海を泳ぐ

今、地球には六十億人だの七十億人だのいると言われている。しかし、その中で全く同じ人生を歩んできた人は一人もおらず、誰もが別々の経験をしているわけだ。だからこそ、人を知るのは面白い、と私は思う。本書「赤めだか」もそんな一冊だ。

 

主人公となるのは、今もっともチケットが取れない落語家として折り紙付きの立川談春。そんな彼が落語家を目指した幼少期から見習い、前座、二つ目になる迄が描かれている。

 

落語、と聞くと身構えてしまう人も多いかもしれない。能や歌舞伎と同様に日本の伝統芸能の一つであり、高尚で少し住む世界が私たちと異なるイメージがある。

しかし、ページをめくるとそんな事はない。彼らも人であるという事を知る。いや、私たちより幾分どこかおかしいのかもしれない。どんなに焦っていてもツツジにキンチョールを散布する事はないだろうし、ニンニクをタマネギと間違えたりはしないだろう。こんな具合に面白おかしく彼らの日常が描かれているのだ。安心して欲しい。そして、滑稽に描かれていても、彼らの大事な思いや考えは手元に残る。笑って泣いて、また笑って。読み手を忙しくする事間違い無しだ。

 

談春は現在落語家としてだけでなく、ドラマに出演するようになった。というのも、本書が描かれた後談志は亡くなった。談春は落語会の広告塔が亡くなった事を悼み、自らが広告塔になろうとしている。落語の道から一歩踏み出した。

いくら餌をやっても育たない赤めだか。いつのまにか大海に踏み出した彼の今後を、見届けたい。

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