壊された色眼鏡 〜小説「赤めだか」立川談春〜

環境情報学部2年 森本梨沙
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「ニノが出る年末ドラマスペシャルの原作」
それだけで嵐ファンの私はこの作品をバイアスなしに見ることはできないだろうなと、でかでかとニノの写真が印刷されている帯を見ながらそう思った。ジャニーズヲタク、略してジャニヲタというものは得てしてそうではないだろうか。自分の好きなアイドルが出ると分かった上で原作を買うということは、その作品の善し悪しを判断するというよりは、今度うちの子はどんな役をやるのかしらという確認のようなものだと私は認識している。
しかし、「赤めだか」は私のそんな色眼鏡を破壊しにかかってきた。
読んでいるだけで「フフッ」と絵に描いたように吹き出してしまうのである。例えば弟子入りを無事果たしたその日、談春に師匠である談志がカレーの作り方を教えるシーン。シチューをカレーに変えていくその過程がとんでもない。どんどん鍋にありえない材料をぶちこんでいく談志の様子が、リズミカルな文から鮮明に想像出来る。特にお気に入りの一文が以下の抜粋した部分である。
「談志は、かまぼこを手にとって考えている。頼むからやめてと念じている気配を感じたのか、談志が振り向いた。
『これはやめとくか』と云って笑った。(本文より抜粋)」
何度読み返しても新鮮な笑いを届けてくれる一文だ。お願いだからやめてと声に出しては言えないけど念じている談春少年が、ありありと脳裏に浮かぶ。
「赤めだか」は立川談春の経験をもとに書かれたエッセイであるにも関わらず、これが本当に起こったことであることを忘れさせる。落語という今の若者にとって近い存在とは言いがたいジャンルを、まるで小説のように仕立てた文章でこれほど親しみやすく魅せる、立川談春の文章力に圧倒された。そんな感想を抱いている内に、私はようやくこの「談春」をニノが演じるのだということを思い出したのだった。

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