私が彼を好きな理由(『FOUJITA』)
『ラスベガス』には一攫千金の夢がある。じゃあ『パリ』には?ーーー『何か』
人々はパリに『何か』を期待する。自分を変えてくれる何か、力になってくれる何か、そういうものがあるんじゃないかと夢をみる。だってここは華の都なんでしょう?
間違いない。セーヌ川が汚かろうと、カフェのギャルソンの態度が最悪であろうと、金子氏も仰る通り、メトロ6番線が地上に出た時、光り輝くエッフェル塔を見たら感動してしまう。高飛車でイジワル、でも見目は最高に麗しい娼婦。それがパリだ。フランス語も満足に話せないエトランジェ(異国人)が受け入れてもらおうなんておこがましい。態のいいカモがいいところだ。
「アタシはね、悋気持ちなのサ。何サ、そんな女にもいい顔しちゃって!」日本が女だったら、きっとこんな感じ。だって藤田は史上にも稀なパリに愛された男なんだから。
多くの日本人芸術家が『フジタ』に続けとパリへ向かった。第二のフジタになるのだと。でも誰もなれなかったのだ。日本の嫉妬を一身に受けた彼はフランスに帰化し、彼の最後の仕事、ランスの礼拝堂の脇でひっそりと、レオナルド・フジタとして亡くなった。
彼の地に住んでいる時、『藤田嗣治「異邦人」の生涯 』(講談社文庫・近藤史人著)を読んでいたから、フジタの一生についてはおおよそ知っていた。それだけに映画には大きく期待していた。日本人として死ぬことも許されなかった彼が、日本人の監督によって、映画化される。前述の著書によると、フジタは日本に愛されたかったらしい。彼に対して遅すぎる手向けとなるだろうか。
かつて読んだフジタは少し隠っぽくて、色気のある、女をダメにするタイプの優しい男性だった。映画の中でも彼の柔らかく、優しい色が滲みでていて、満足。ユキが浮気していることを知りながらも、別離に際して、彼女を守ってくれるお守りとしてタトゥーを入れようとする。小さな独占欲と、一つの行為で彼女の幸せを願う後腐れのなさが素敵だった。いいダメな男、フジタ。
実をいうと、私はフジタ贔屓である。絵が好きなのもあるが(アッツより猫とか女が好き)至極単純な話で、私がユキだから。
総合政策学部4年 吉岡優希(ユキ)