物語を超える絵 〜FOUJITA〜

 

総合政策学部3年

小山峻

 

「FOUJITA」は、パリで活躍した日本の画家、藤田嗣治の半生を描いた伝記映画である。舞台は異郷の地パリで成功していく一九二十年代から戦時中の日本で戦意高揚画を頼まれた一九四十年代であり、どんちゃん騒ぎをするパリの夜や、戦時中のどこか物寂しい日本の街並みが描かれている。

印象的なのは、藤田の「生き残る」ことへのこだわりだ。不名誉なことや自分に合わないことを突きつけられても、生き残るためには決して選り好みをしない。藤田はパリで「フーフー」という蔑称で呼ばれても、戦意高揚画に手をかけても、「悪趣味でもやるべきです」と言い、生き残るためにその場においての全力を尽くす。その姿勢は時に滑稽であり、時に官能的である。芸術家の枠を超えた、原始的な信念が感じられる。

しかし、藤田の選り好みをしない姿勢は逆に仇となる。作中では描かれないが、藤田は戦後民衆やGHQに戦意高揚画に関わったことに対して「戦争協力だ」と批判を受けることになり、フランスに戻ることになるのだ。マスコミからも「亡霊」呼ばわりされ、一九六八年にはガンで亡くなってしまう。戦意高揚画は、生き残るため、戦時中でも絵を書き続けるための、当時の藤田にとっての最善の手であったのに。それが日本で生き辛くなるという裏目に出るとは、何とも言えぬ皮肉である。

作中、戦争で日本に戻った藤田は「いい絵は物語を超えて生き残ります」と語る。藤田嗣治、そして藤田の絵は「FOUJITA」という物語となった。彼の絵画のように写実的で幻想的なその物語は、スクリーンを超えて、私達の胸に染み込んでゆく。映画を見た後も、私達は裸婦像の乳白色の肌や、「アッツ島玉砕」の薄暗い血と土の色合いを忘れることができない。藤田は今も、生き残っているのだ。

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