「歌う」はちょうちょ (『エール!』)

なぜ映画のタイトルって意訳されてしまうのだろうか。私の涙がなんだか安っぽくなるじゃないか。エール!って。

恐らく私が最後にフランスで見た映画だ。シャンゼリゼ通りの麓の大きな映画館。上演期間の最後の方なこともあり、客席は選び放題だった。
仏語題は ラ・ファミーユ・ベリエ。直訳すれば『ベリエ一家』。たしかにこれじゃ味気ないかもしれないが、カタカナじゃダメなんだろうか。まだその方がかっこいい気がするんだけど。

それはそれは泣いた。聴力障害の家族の中で唯一健常者として産まれた少女が、人生を歌とともに歩むお話。
こんな分かりやすく泣かせてきそうなあらすじに、負けないぞ、と踏ん張っていたが、涙腺は決壊。子供達、家族を大事にする、彼ら独特のライフスタイル。背景の描写はフランスの等身大な日常なのが感情移入の原因なのだろう。障害を持つ家族の演技も圧巻だった。大泣きで映画を後にした。よかったね。家族に認めてもらえて。

所々に出てくる、それは笑っていいのか、という独特なユーモアのセンスは日本人には理解できないかもしれない。弟が手話を教える名目で、姉の友人にせまるシーンなど、なんともブラックジョーク。やりすぎだよ、というヒステリックならお母さんにドン引き。
しかしフランス人は大好きなんですよ。皮肉屋なもので。客席は爆笑だった。

実はこの映画で歌われているシャンソンは、フランス人にとっては、大人から子供まで有名なものばかりらしく、お客さんが口ずさむ。日本ではありえない観劇スタイルにほころんでいた。面白い時は笑う、歌いたかったら歌う、怖かったら叫ぶ。素直でいいなぁ。だが、おじさんが最後のいい曲を大声で熱唱し始めた時は、軽く殺意がわいた。おっさんの歌声を聴きたいわけじゃないんですけど。

手話は全世界共通なんだよ、という話を、どこかで聞いた。「歌う」の手の動きがちょうちょみたいだったのが、なんだかきれいで今も残っている。

総合政策4年 吉岡優希

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