談春の初随筆、師弟の想い 〜赤めだか〜
総合政策学部3年
小山峻
立川流四天王の一人、落語家立川談春。彼が立川談志の弟子になってから真打になるまでの修行時代を描いたエッセイが「赤めだか」である。談春はドラマやバラエティ番組などのメディア進出が多い落語家だ。最近では「下町ロケット」の俳優として注目を浴びているが、本を出したのは「赤めだか」が初めてなのだとか。読了した頃には、それを忘れてしまうほどの読み応えをひしひしと感じた。
全くもって、処女作とは思えないほど文章力が高いのである。淡々とした文体でありながらも途中で本音や冗句、急展開をさらりと投入してくるので、読者はどきどきしながらページをめくる。だが描写や会話の描き方は極めて丁寧なために負荷がない。特にハワイ旅行の話を読むと、私は今でも声を出して笑ってしまう。「初めての海外旅行で見ず知らずの女に追い詰められてごらん、ものすごく怖いから」なんていきなり書かれたら、吹かざるを得ないではないか。言葉で情景を想像させて笑わせるという点では、落語的な文章と言えるのかもしれない。
同時に談春という視点から見た、立川談志をはじめとした落語界の描き方も見事なまでに達筆で、文章にきちんと命が吹き込まれている。立川流の個性的な一門を、どんな人物かただ説明するのではなく、セリフやエピソードを交えて自然に人物像を思わせるので、印象に強く残り、なおかつ文章には無駄がない。そして彼らのおばかな姿をネタにしつつも、それぞれが秘めている熱情もしっかりと描く。談春は本当に落語を、立川流の一門を、そして師匠立川談志を愛しているのだ。帯の「笑って、泣いて・・・」の宣伝文句は、本当に看板に偽りがない。
それと一つ、衝撃的なことがあった。最後の「特別篇その二」になんとびっくり、我らが師匠「福田和也氏」の名前が出ていたのだ! 文庫版では解説も書かれているらしい。「赤めだか」とその解説を参考に、福田研あらため福田一門についてのエッセイでもいつか書こうかと思う今日この頃である。