Vive l’amour (『ニキ・ド・サンファル展』)

私が初めてニキに出逢ったのはパリの街角でのこと。ショッキングピンクの切れ目から銃口を向けて、やんちゃかわいい金髪の女の子がこちらを狙っていた。
 ある日、展示を見に行こうと誘われた。パリの冬は寒くて、暗い。外出するいい理由になった。しかも会場がグラン・パレ。宮殿のような巨大な建造物。パリ万博の時に作られ、今も現役の展示会場である。いいものがあるに違いない。
 あれ、噴水にカラフルな蛇のブーケみたいなのがある。シリアスな彫刻との組み合わせがアンバランスだ。わくわく。チケットを渡され中に入ると…あ、ピンクの銃の子だ!
 壁には彼女の略歴が。精神を病んでニースで療養し、絵を描くことで回復し、芸術家生命がはじまった。うわー、ゲイジュツカって感じ。芸術家ってすぐ南仏行くんだから。
 純白のウエディングドレスの女が乗るのは、人の足やらブドウやらがはみ出している、腐った馬。平然としているなんて気持ち悪い。
 半ば憂鬱な気持ちで次の部屋に行くと、喜びに溢れていた。空に浮くナナ、踊るナナ。素材も様々で光が飛び散っている。白黒の会場が色彩に埋め尽くされていた。なにこれ、楽しい。ナナには顔がないのに、女を謳歌しているように見えた。纏いたい色を、物を身にまとって、自由に。
 突然銃声が響いた。映像から。ついにニキが動いた。彼女は男に囲まれ、自分のオブジェに銃を向けていた。あ、と思った瞬間、色が爆発した。彼女は戦っていた。戦場ではなく、アートの場で、女として。
 十分だった、私にニキを知らしめるのには。夢中で作品にかじりついた。一つでも逃したものがあるのが嫌だった。全ての作品が暴力的なまでに「女なのだ!」と叫んでいた。夢中でポストカードを買っていた。Vive l’amour愛に生きる。なんともニキらしい
 ニースの街でナナを見かけた。抜群に似合っていた。数ある芸術家はここを終の住処として選んだ。でも彼女はここから始まったのだ。芸術家の愛する街ニースに生かされたのだ。そう、思わずにはいられない。

総合政策学部4年 吉岡優希

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です