ビジョンの体感 〜ニキ・ド・サンファル展〜
総合政策学部三年
小山峻
国立新美術館入口にある「く」の字の自動ドアを抜け、逆円錐形の空中レストランを横目にニキ・ド・サンファル展に入る。すると目の前に、小石や陶片、剥製に人形がはり付けられた自画像や聖堂が現れる。その異形ぶりに圧倒されていると、奥の空間からターン、ターンという銃声が響いてくる。足を運ぶと
全身真っ白な服装の女性ニキが、同じく真っ白な自分の作品にライフルを撃ってペンキをはじけさせる映像が流れていた。
美術館のよいところは、作者と同じ距離、目線でその作品を見られるところだ。「射撃絵画」に顔を近づけると、ニキも味わったであろう鉄とペンキの混ざった独特な匂いが、製作、射撃の光景を鮮明に想像させてくれる。またニキの作品は時代によって作風が全く異なっており、それぞれに込められた豪然たるメッセージも、私達は肌で感じることができるのだ。例えば神の像の頭上で直視できないほど眩しく発光している電球は、ただの絵の具や彫刻では真似できない神々しさや近寄りがたさを眼球に訴えかけてくる。丸々とした肉体で思うままにポーズを決める女性像「ナナ」は解放的な女性の姿をイメージさせるが、まじまじと眺めてみると所々がわずかに凹んでいる。実物を見て判明した「思ったほど『ナナ』は丸くない」という事実は、「女性はもっと自由であるべきだが現実はそう単純ではない」というメッセージなのではと思わず邪推してしまった。そうした濃密な作品群を見る内に、ああ、この人は芸術家にありがちな色々なものをこじらせた人間なのかと思うだろう。だが日本の友人に送った手紙のカラフルな「ドウモ有難ウ」の筆跡を見ると、彼女なりの心遣いやユーモアを込めた純粋な感謝の気持ちもうかがうことができる。
展内のインタビュー映像でニキは「私は社会を変えることはできないが、ビジョンを提案することができる」と述べている。彼女が作品を通じて掲げたビジョンは、目を、耳を、鼻を介して私達の胸間を極めて鮮やかに鷲掴みにしてしまうのである。